アゼリア・バンクスもブレイクしてユニヴァーサルと契約したり、クレイちゃんことクレイショーンも無事SONYからアルバムが発売されたり(対訳&解説やってます)、カナダ出身のハニー・コカイン a.k.a ハニコカちゃんもナイスなミクステを発表したり(このコは事故に巻き込まれることも多かったけど…)、とエキサイティングな一年でした。
ハニコカ(むしろハニコ)は、常にエイジャン・ビッチをレペゼンしていて、彼女の楽曲は聴いていてスカっとすることも多かったな。
※ハニコはカンボジア出身。家族とともに移民としてカナダのトロントに移ったそう。そして(当然だけど)英語は彼女の母語ではないとのこと。「英語を喋る前から2パックを聴いていた」とのことで、第二外国語でラップしてすごいなー、と思いました。
カワユスハニコ。
そして、中でもエキサイティングだったのはNYを拠点に活動するこの二組のフィメールMC達。
一人はキロ・キッシュ。
彼女はフロリダのオーランド出身。幼年期にニュージャージー州に引っ越して、18歳のときに奨学金を得てブルックリンにあるプラット・インスティチュートという美術学校に通うこととなる(ここの卒業生にはパティ・スミスやベッツィー・ジョンソンの名前も)。
ちなみにキロが小学生のときに組んでいたコーラス・グループの名前は<ディアンジェルズ(D'Angelz)>というらしい。カワユス。
NYでいくつかのバイトを掛け持ちしながら生活を送っていたキロ。その中でも「Miss Lily's」というレストランでは二度、カニエ・ウエストに遭遇したとか。そんな中、歌手デビューよりも先に、リーバイスのキャンペーン広告にてモデル・デビューを果たす。ここからキロの「インダストリー・ライフ」が幕を開ける。
やがて、後にグループ<KKK>を組むこととなるスマッシュとともに、初めてのレコーディングを慣行。コレがその曲、"oooNiggaOoo"だ。
ちなみに彼女のステージ・ネームを<キロ・キッシュ>と改めたのもこの頃で、ともに楽曲制作をするスマッシュとJ・スコットがアトランタ出身ということから、同じアトランタのヴェテラン・ラッパー、キロ・アリが由来になってるらしい。まさかw(彼女の本名は、ラキーシャ・ロビンソンという。キーシャ=キッシュ、ってことなんだね)
そして、この後、ジ・インターネット(The Internet)のマットとともに楽曲制作を始めることに。
今年の1月(デジタル盤は先駆けて2011年12月に発表)にリリースされた、ジ・インターネットのアルバム『Purple Naked Ladies』でもその存在感を見せつけていたキロだけど、キロちゃんの待望のソロ・デビューミクステ『Homeschool EP』が2012年4月に発表される。
Kilo Kish - Homeschool EP
ジ・インターネットのシド(オッド・フューチャー)とマットが大半の曲をプロデュースしたこのEP、ジ・インターネットの作風が好きな方は絶対に気に入るはず。浮遊感漂うキロのラップ(というよりはポエトリー・リーディングに近いけど)は、そのメランコリックなリリックとフューチャリスティック&チルなサウンドも相まって、不思議な立体感を見せる。今年の暑い夏、このミックステープは相当聴いた。
そんなキロは、今年、チャイルディッシュ・ガンビーノやフラットブッシュ・ゾンビーズら、同じくニューヨーク(ロウワー・イースト・サイドからブルックリン)を拠点とするラッパー達のミックステープにも参加。ASAP連中とも仲良くつるんでおります。
自らのスタイルを「sing-y, talk-y, rap-y(歌ってるっぽくて、お喋りっぽくて、ラップしてるっぽい)」と形容しているキロだけど、まあ、確かにそんな感じです。
最近はライブやツアー活動に勤しんでいるようだけど、更なるブレイク・ポイントがあればなと思う。
個人的にも好きなブルックリンの「イマ」を表現するアーティストとして見守っていきたいなと。
余談でもありますが、キロと同じく「はずみでラップを始めてミックステープを出したら意外と評判よくてフロリダからNYに来ちゃった」フィメールMCがもう一人、キティ・プライドちゃんです。彼女はフロリダのクレアーズでバイトしてた経歴の持ち主(しかも結構最近まで)なんだけど、まさにクレアーズ!て感じの彼女のPVもナイスw。ふわふわしてるけど、NYのライブではMFドゥームのトラックでラップしたり、プロデューサーにはビューティフル・ルーが参加してたりと、尖ったこともやれるコです。
長くなってすません。
もう一人がこちら、エンジェル・ヘイズ。
彼女の出現にはびっくりしました。
痛いことは痛いと言う、そんな女性です。
そんなの、誰だって出来るじゃんよ、と思いますが、振り返りたくない、辛い過去の出来事を自分の言葉でリアルにラップ出来るフィメール・ラッパーってそんなにいなかったんじゃないかなと思う。
彼女の場合は特に壮絶で、母親がカルト宗教にハマってしまい、親子ともどもホームレス状態で住まいを転々とした、とか、小さな頃から無理矢理性的虐待を受けていた、とか、そんな過去なんですね。事実、彼女は少女の頃から神経を病んでしまい、強い自己嫌悪や自殺願望に苦しみ、摂食障害にまで及んだとか。
(ちなみにがカルト宗教で苦しい思いをしてきているのを身近で見ているため、エンジェルは無神論者。「神を信じるのは自由だけど、それに言い訳に依存しすぎるなんてバカらしい」とは彼女の弁)
そんな彼女がラップを始めたきっかけは、自分の心のセラピーとして。書き始めた詩は段々とラップのリリックになり、エンジェルは社会的なメッセージを含んだラップをYouTubeにアップするようになる。
現在、21歳のヘイズだけど、彼女が音楽の道に進もうと決めたのは17歳のとき。様々なビートジャック楽曲をネットに上げ続け(しかもかなり挑発的!)、そうしているうちに、マネージャーとなる男性、リロイと出会う。やがて、音楽活動の場を求めて母親とともに住んでいたヴァージニアを離れてニューヨークへ引っ越すことに。その後、今年の夏にミックステープ『Reservation』をリリース。
Angel Haze - Reservation
Pitchforkや2DopeBoyzなどのネット・メディアにも絶賛され、今年の11月、ユニヴァーサル参加のリパブリック・レコーズと契約を結ぶ(同レーベルにはかつて、エイミー・ワインハウスも所属)、と、とんとん拍子に見えるキャリアだ。
そもそも、「ラップ・ミュージックなんて全部過剰で全部同じことの繰り返し」と言うエンジェル。尊敬しているラップ・アーティストはエミネムただ一人(エンジェルもまた、エミネムと同じデトロイトの出身)。同じく今年発表されたミクステ『CLASSICK』では、エミネムの"Cleaning Out My Closet"をビートジャックし、彼女の痛ましい経験を吐露している。
幼いエンジェルを苦しめた出来事だが、彼女をそんな状況下に置いたのは、間違い無く彼女の実母だ。エミネムもまた、同曲では実母に対する激しい憎悪をラップしているが、それをエンジェル流に見事書き換えた。曰く、この曲は「これまでで一番正直な曲」だとか。
何故、こんなに痛ましい事実までラップするんだろう。
それは、「世の中に対して正直になるほど、世間からリスペクトされる」という彼女の持論に基づく。また、この曲に関しては「同じような経験をしている子供たちに聴いてほしい。虐待される子供は、自殺してしまうかドラッグに溺れてしまうかのどちらか。自分の本当の強さを知らないままでいる。でも、この曲を聴いて自分の強さを知ってほしい」とも。
本名はレイキーア・ウィルソン。エミネムとスリム・シェイディの関係さながら、レイキーアにとって<エンジェル・ヘイズ>とは、彼女がラップをするために産み出したもう一人の自分。レイキーアによると、「あたしが出来ないことも、エンジェルはやってのけるのよ」とのことだ。
セクシャルでマテリアリスティックな表現が巧みで、ワードプレイの上手な女性アーティストは沢山いるし、これまでにもそんな先人たちが「フィメール・ラッパーの道」を築いてきた。
だけど、女性として生きることの辛さや、虐待を受けてきた子供の視点から、彼らが抱える闇をラップしてきた女性MCは少ないだろう。
何故って、そんなトピックでラップするってことは、自分の弱い部分を曝け出すことになるから。
でも、エンジェル・ヘイズのラップは、その痛々しいリリックの中に圧倒的な「強さ」を孕んでいるのだ。
※こちらに、エンジェル・ヘイズ"Cleaning Out My Closet"の歌詞対訳を載せています。
シリアスな表現が続くので、とくに男性は閲覧注意。強くなりたい女性は是非目を通してみて下さい。
そして、彼女のときに無機質なラップは、ジェンダーや環境を越えて心に響くものがある。
それは、彼女のラップからは万国の人間が共通して抱える孤独や寂しさを感じるからじゃないのかな。
この曲では「I run New York」と言ってるエンジェルだけど、ジェイ・Zのソレとは全く別で、何かから逃げている、夢中で都会を走り抜けているエンジェルの姿が浮かぶ。
と、固くなってしまいましたが、何故私がエンジェル・ヘイズを好きかってもう一つの理由に、彼女はモーレツなアリーヤ・フォロワーだからってのがある。
『Reservation』でもアリーヤの"Hot Like Fire"をサンプリングしているけど、なるほど、最近のエンジェル・ヘイズのアーティスト写真は前髪を右サイドに流してるものが多い。上に貼ったアー写も、アリーヤを髣髴とさせるよね。これは、間違いなくアリーヤが確立させた「右目隠しの法則」をレペゼンしていると断言してよかろう。
どうでもいいけど、私も「右目隠しの法則」に倣って、前髪は常に右サイドに流しているんですよ。
でもってキロ・キッシュタソと同じく、エンジェルもブルックリン住まい。アリーヤも、もともとはブルックリン生まれ。ブルックリン・ネットワークの妙よ!
というわけで、全然まとまりないですが、2013年も強い女性たちの活躍を望みます。
こんな風に多彩なフィメール・アーティストがヒップホップシーンで活躍出来たのも、全てはニッキー・ミナージュがその受け皿をググっと色んな方向に広げてくれたお陰!?とも思うし…。
(ポップ・フィールドからゲイ・フィールドまで。事実、アゼリア・バンクスなんかはゲイ・ラッパーのゼブラ・カッツとともにツアーを廻ってるし、エンジェルだってレズビアンを公言している)
でもってニキちゃんと言えば、今年、私は念願の(!)対面インタヴューを果たすことも出来たし、実りの多い一年となりました。
感謝です。
じゃあまたねー。
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